はまなす行政書士事務所
行政書士 角屋敦士
78. 遺言を書いた後に預金口座や不動産が変わったら――財産の特定方法と見直し時期を考える
専門記事・実務研究 78|遺言・相続・終活
作成・公的資料確認日:2026年9月29日
遺言に書いた口座を解約して別の銀行へ移した。自宅を売り、住み替え先を購入した。財産の形が変わると、書いた当時の意思と、死亡時に実行できる内容がずれることがあります。家族関係全般の見直しを扱う記事18から一歩進め、財産の特定、残余財産、書面の更新方法を中心に考えます。
この記事で確認すること
変わったのは表示か、財産そのものか
銀行の名称変更や支店統合と、旧口座を解約して新たな金融機関へ預け直すことは同じではありません。不動産でも、住居表示の変更と、売却・買換え・分筆・共有持分の変更では確認点が異なります。遺言の記載と現在の資料を横に並べ、何が変わったかを特定します。
民法は、遺言と後の遺言又は生前の処分等が抵触する場合について、抵触部分の撤回に関する規定を置いています。ただし、どの財産へ効力が及ぶかは遺言の文言や処分の内容によります。「口座番号が変わったから遺言全体が無効」「売却代金も当然に同じ人へ渡る」と一律に結論を出しません。
不動産と預貯金は、それぞれの資料で特定する
不動産は登記事項証明書等により、土地の所在・地番、建物の所在・家屋番号、共有持分等を確認します。住所だけで実家を指定すると、付属地や私道持分の扱いが曖昧になる場合があります。所有者、持分、抵当権等も含め、何を残す予定かを整理します。
預貯金は金融機関・支店・預金種別・口座番号と、残したい範囲を確認します。特定口座だけか、その金融機関の預貯金全体かでは、将来口座が増えたときの扱いが変わり得ます。特定を広くすれば常によいわけではなく、他の条項と重複せず本人の配分希望を表しているかが重要です。
想定例:自宅を長男へ、預金を長女へと決めた後
例えば、自宅を長男、A銀行の預金を長女へ残す遺言を作成後、自宅を売却して代金をA銀行に入金したとします。家族への配分を変えるつもりがなくても、現在の財産と旧遺言の対応を改めて検討する必要があります。売却前と売却後の財産一覧を作り、本人が今どのように配分したいかを確認します。
この場面で家族が「前の意思はこうだったはず」と目録を差し替えてはいけません。遺言者本人の意思と判断能力を確認し、方式を守って見直します。配分をめぐる対立や解釈の争いが予想される場合には、弁護士へ相談します。
残余財産の条項を、見落とし防止として検討する
記載のない財産を誰へ帰属させるかを定める条項は、後から取得した財産や記載漏れへの備えになります。ただし、特定の財産を誰かへ残す条項とどう組み合わさるか、受取人が先に亡くなった場合をどうするか、債務や費用との関係を含めて検討します。文例を一行足せばすべて解決するものではありません。
当事務所が提案する点検表では、財産ごとに「遺言の条項」「現在の名義・内容」「変更日」「本人の現在の希望」「要確認」を並べます。配分割合と実際の金額が大きくずれた場合も確認できるよう、目録の作成時点を明記します。目録の定期更新は実務上の管理提案であり、遺言の法定更新義務ではありません。
法務局への変更届では、遺言内容を書き換えられない
自筆証書遺言書保管制度における住所・氏名等の変更届と、財産の配分を変える遺言の変更は別です。大阪法務局も、相続又は遺贈する財産の変更等は、新たな遺言書の作成・保管等による対応を案内しています。保管申請の撤回も、遺言そのものの撤回と同じ意味ではありません。
自筆証書遺言の本文や目録を加除訂正するときは法定の方式が必要です。自書によらない財産目録にも各ページへの署名押印等の要件があります。家族がパソコンの一覧だけ更新して差し込む方法は避けます。公正証書遺言の変更は公証人へ相談し、手元の謄本への書込みだけで処理しません。
見直しのきっかけと、旧版の所在を残す
不動産売買、口座の集約、大きな贈与・借入、受取人の死亡などを点検のきっかけにします。①現行遺言と財産資料を確認、②変更前後を対比、③本人の希望を確認、④必要な専門職と文案・方式を検討、⑤新しい遺言を作成、⑥旧遺言との関係と保管情報を整理、という順序が基本です。
相談時には、現行遺言の写し、最新の財産一覧、変更した資料、現在の希望を準備してください。当事務所は、遺言作成に向けた資料整理と受任可能な文案作成支援を行います。不動産登記は司法書士、税負担の判断は税理士、効力や権利関係の争いは弁護士へ接続します。原本の廃棄は、新しい遺言との関係を確認せずに急がないでください。
相談前の確認メモ
以下は、資料を整理するための当事務所の提案です。法令上の全国共通様式ではありません。
| 確認する区分 | 資料・事実 |
|---|---|
| 変更内容 | 名称変更か、売却・解約・新規取得か |
| 条項 | 財産の特定、残余財産、他条項との重複 |
| 更新手続 | 本人の意思、法定方式、旧版と保管情報 |
公的な根拠・参考資料
下記は制度の確認に用いた公的資料です。本文中の整理表・運用手順・想定例は当事務所の実務上の提案と区別しています。個別案件では、対象サービス・地域・手続時点に適用される法令、通知、提出先の取扱いを確認します。
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状況を整理して相談する
困っている点、期限、手元の資料、これまでの経過をお知らせください。本記事の相談準備に挙げた資料から必要な範囲を確認し、行政書士が支援できる部分と、他の専門職へつなぐ部分を整理します。