はまなす行政書士事務所
18. 遺言を作った後に家族や財産が変わったら――見直す箇所と、古い遺言の扱い
専門記事・実務研究 | 参考資料確認日・更新日:2026年9月28日
家の売却、口座の変更、受け取る人の死亡など、作成後の変化を放置しないために。現在の意思と遺言の内容を照合する点検手順を紹介します。
この記事の内容
1. 困りごと:一度作ったので、そのままでよいと思っている
2. 見直しのきっかけを、生活の変化に結び付ける
3. 遺言と現状を、一行ずつ照合する
4. 変更方法は、方式と複数の遺言の関係を確認する
5. 保管の撤回と、遺言の効力の問題を混同しない
6. 自宅を売却した後の点検を例に考える
7. 本人の意思を中心に、完成後の管理まで整える
困りごと:一度作ったので、そのままでよいと思っている
数年前に遺言を作った後、自宅を売り、預金口座を整理した。家族関係にも変化があったが、遺言は見返していない。遺言があることと、現在の希望を実現できる内容であることは別です。
変更があれば遺言全体が無効になる、という単純な話ではありません。どの条項にどの変化が影響するかを確認します。原本へ思いつきで加筆する前に、遺言の方式、保管場所、作成時期、内容を整理してください。
見直しのきっかけを、生活の変化に結び付ける
確認のきっかけは、不動産の売買、金融機関や口座の変更、婚姻・離婚、家族の出生・死亡、受け取る人の状況の変化、遺言執行者に予定した人が対応できなくなったことなどです。
財産の名称が変わっただけなのか、対象そのものがなくなったのか、受け取る人が変わったのかを分けます。生活費や介護費用の見通しが変わった場合は、将来残る財産の構成も変わることがあります。定期点検と、出来事があった時の点検を組み合わせると管理しやすくなります。
遺言と現状を、一行ずつ照合する
点検表を「遺言の記載/現在の事実/本人の現在の希望/確認資料/要検討事項」に分けます。不動産なら表示と現在の権利関係、預金なら金融機関・口座等の情報、人物なら関係と本人の意向を確認します。
受け取る予定の人が先に亡くなっている場合や、特定の財産が処分されている場合は、その条項の効果や他の条項との関係を個別に検討する必要があります。家族だけで「同じ意味のはず」と読み替えて運用を決めないことが重要です。
変更方法は、方式と複数の遺言の関係を確認する
遺言の撤回や変更には法律上の方式が関係します。自筆証書遺言の訂正も、単に線を引いて書き直せばよいとは限りません。内容を整理し、新しく作り直す方法を含めて検討します。
新しい遺言がある場合でも、古い遺言との関係や抵触する範囲を曖昧にすると解釈上の問題が残り得ます。「新しい紙があるから古いものはすべて無関係」と決めつけず、撤回する範囲と残す内容を明確にします。公正証書遺言については公証人と作成・変更の手順を確認します。
保管の撤回と、遺言の効力の問題を混同しない
法務局の自筆証書遺言書保管制度では、保管後の内容変更や保管の申請の撤回に関する手続が案内されています。保管所から遺言書を返してもらうことと、遺言の法的効力を撤回することは別の問題として確認が必要です。
保管方法を変える場合は、関係者が必要な時に遺言の所在を把握できるかも検討します。ただし、家族へどこまで内容を知らせるかは本人の意思や個別事情によります。暗証番号や原本の画像を広く配布して、所在管理の代わりにしないようにします。
自宅を売却した後の点検を例に考える
自宅を特定の人に相続させる内容を作成した後で自宅を売った場合、現在残っている売却代金、生活費に使った部分、他の財産、ほかの条項を確認します。「売却代金も同じ人へ渡るはず」と家族の解釈だけで済ませず、現在の意思を本人に確かめます。
点検の結果、内容を変更するなら、財産一覧と遺言の文言が一致するか、残る財産の扱いに漏れがないか、税務等の別の論点がないかを確認します。作成後は作成日と保管方法を整理し、古い案文を正式な遺言と取り違えないよう管理します。
本人の意思を中心に、完成後の管理まで整える
家族の希望で書き換えを急ぐのではなく、本人がどのように考えているかを確認します。判断能力や自由な意思に懸念がある場合、形式だけ整えることはできません。公証人や必要な専門職へ相談し、確認方法を検討します。
当事務所では、現在の家族・財産の状況、本人の意向、既存の遺言を整理し、遺言書作成支援につなげます。紛争、税務、登記に関する問題はそれぞれの専門職と連携します。相談時は、既存の遺言の写し、変化した事項の一覧、現在の希望をご準備ください。
参考資料と適用上の留意点
本記事は一般的な制度・実務上の整理です。本文の想定例や記録項目は当事務所での実績・法定様式を示すものではありません。個別の対応では最新法令・通知・自治体運用・契約内容と具体的事情の確認が必要です。
関連する記事
06. 公正証書遺言と自筆証書遺言、どう選ぶか――費用だけでは決められない準備の論点
07. 遺言を作る前に整理する家族関係――再婚・前婚の子・連絡の取れない親族がいる場合