まず押さえたいこと

預金の使い道を巡る問題は、死亡前か死亡後か、誰が何をしたか、権限・使途・保管状況がどうだったかで整理が変わります。家庭裁判所の遺産分割手続きが、すべての取引を自動で調査するわけではありません。[1][2]

最初の一歩:疑わしいと感じた取引について、日付・金額・出金先・分かっている説明・裏付け資料だけを表にします。

この記事の目次

1.「出金された」と「使い込まれた」を分ける

説明用の例です。父の通帳を見た次男が、毎月20万円ずつ出金されていることに気付きました。父と暮らしていた長女は「施設費と生活費」と説明しましたが、領収書はまだ集められていません。この段階で必要なのは、不正と断定する文章ではなく、確認できる取引と支払いの対応関係です。

通帳の数字だけでは、現金が父の手元に残っていたのか、父のために支払われたのか、他人へ贈与されたのかは分かりません。「説明がない」と「説明が虚偽だと確認できた」は、区別して記録します。

2.死亡前後を境に、時系列を作る

相続の開始時点で何が財産だったかと、その後に誰がどう扱ったかを分けます。死亡日の残高証明だけでは、前後の出金の理由までは分からないため、必要な取引期間を絞り、金融機関へ照会の手続き・必要書類・取得可能範囲を確認します。

日付・取引現在分かることまだ確かめること
死亡2か月前・現金出金通帳に金額の記録がある誰が引き出し、何に使ったか
死亡前・施設への振込振込先が施設名請求書と金額が一致するか
死亡後・口座解約払戻明細がある手続きの根拠と入金先
現金を家族が保管保管しているという説明金額・保管場所・分配の合意

3.資料は、本人の権限と正規の手続きで集める

金融機関ごとの取扱いを確認し、自分が相続人であること等を示して必要資料を取得します。相続人であることの確認、取引履歴の開示、預金の払戻しは同じ手続きではありません。払戻しに必要な同意と、調査のための資料取得を混同しないでください。[3]

親族の端末へ無断で入ったり、本人を装ってネットバンキングへログインしたりする方法は使いません。既に手元にある資料は原状を保ち、取得日・取得先を残します。数字を見やすく転記した表とは別に、元の通帳・明細を保存します。

4.遺産分割で扱えるかは、事実と合意で変わる

無断出金に対する返還請求等は、遺産分割とは別の民事手続きが問題となる場合があります。一方、一定のお金を保管していることを認め、相続人全員が遺産として分けることに同意するなど、遺産分割手続きで扱える場面もあります。[1]

また、2019年7月1日以後に開始した相続では、相続開始後に共同相続人が処分した遺産について、処分した人以外の共同相続人全員の同意により、分割の対象として扱うことができる制度があります。死亡前の出金にも一律に同じルールが適用されるわけではありません(民法906条の2)。[4]

5.家族へ聞くときと、専門家へ切り替えるとき

家族へは「この3件の支払いに対応する明細を確認したい」と、対象を絞って伝えます。大きな金額をまとめて「全部返せ」と迫る前に、説明のある取引と未確認の取引を分けると、争点が明確になります。

説明が対立している、資料が破棄されそう、返還請求の期限が気になる場合は、証拠の整理と権利行使を弁護士へ相談します。行政書士への書類整理の相談だけで、時効等への対応が済むわけではありません。

よくある質問

家庭裁判所へ申し立てれば、隠れた口座を全部探してもらえますか。

遺産分割手続きは、遺産を探し出すこと自体を目的とするものではありません。追加の遺産があると主張する側で、原則として裏付け資料を用意する必要があります。[2]

葬儀代だと言われたら、必ず遺産から引かれますか。

葬儀費用の負担や精算は、当然に遺産分割の計算と同じになるものではありません。費目、契約・支払者、相続人間の合意、税務上の扱いを分けて確認します。

今日の確認メモ

  • 死亡前後の取引を分ける
  • 事実・説明・未確認を別欄にする
  • 通帳と請求書・領収書を突き合わせる
  • 対立や返還請求は弁護士へ相談する

根拠となる公式資料

[1] 名古屋家庭裁判所「遺産分割調停」

[2] 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」

[3] 全国銀行協会「預金相続の手続の流れ」

[4] e-Gov法令検索「民法」

制度確認日:2026年10月17日。日本の一般的な相続・遺言手続きを説明しています。事例・金額は説明用です。作成日・死亡日等による経過措置や個別の事情で結論は変わります。税務は税理士・税務署、登記は司法書士等、紛争・権利行使は弁護士にご確認ください。

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