「何かあったときは、ご家族に連絡します」。普段なら聞き流す一言でも、頼れる家族がいない人には、答えに困る場面があります。病院へ入った後の支払いはどうするのか。亡くなった後、誰が葬儀や部屋の片付けを進めるのか。終活の不安は、一つの書類を作ればすべて片付くものではありません。
奈良市が10月1日に始めた「エンディングサポートなら」は、こうした不安に対応する取り組みです。奈良市社会福祉協議会との契約に基づき、死後事務、入院・入所時の手続き、見守りなどを支援します。[1]
頼める先が具体的になることは、大きな前進だと思います。ただ、支援を始めると、次の問いも見えてきます。どこまで引き受けられるのか。その費用を、本人と支える側でどう負担するのか。安心を長く続けるには、契約の入口だけでなく、その後の仕組みまで考える必要があります。
家族がしていた仕事を、地域で分担するとき
家族は、連絡を受け、支払いを確認し、必要な手続きを探し、ときには本人の気持ちを関係者へ伝えます。その仕事を地域で支えるなら、医療機関、地域包括支援センター、社協、専門職などが、それぞれの役割をつないでいくことになります。
国のモデル事業も、公的支援と民間・地域の資源を組み合わせる相談・調整や、契約の履行状況の確認を想定しています。[2]一つの組織ですべて担うのではなく、必要な支援を組み合わせる方向です。
例えば、見守りの担当者が入院を知ったとき、誰に連絡し、誰が手続きを進めるのか。支払いを扱う担当者が交代したら、何を引き継ぐのか。役割の境目で仕事が止まらないようにしておくことが大切です。
「連携しています」という説明があっても、本人には、困ったときに誰へ連絡すればよいかが分からないかもしれません。相談先を分かりやすくし、実施する担当と、その実施を確認する担当を決める。地域連携を安心につなげるには、この具体性が必要だと考えます。
「儲けないから安心」とは言い切れない理由
支援にどの程度の利益を見込むかは、気になるところです。高齢者の不安につけ込むような料金は困ります。一方で、利益を出さない設計なら、それだけで長く続けられるとも限りません。
訪問や手続きをした時間以外にも、相談を受けられる人員、契約や資金の管理、緊急対応の準備、担当者の交代には費用がかかります。契約が長期に及べば、人件費や必要な支援量が変わることもあります。
ここで見落としたくないのが、預託金と利用料の違いです。奈良市の案内も、将来の葬儀などに備えて預かるお金と、手続き支援などに対する利用料を分けています。[1]本人のために預かっているお金を、事業の運営収入と同じようには扱えません。
収支を均衡させる場合でも、将来の対応に必要な備えを含めて計算する必要があります。一定の余剰を確保し、それを継続のために使う設計にも意味があります。利益の有無だけでなく、提供する内容に費用が見合っているか、お金の使い方が説明されているかを見ることが大切でしょう。
仮に、数年後に当初の見込みより費用がかかるようになったら、どうするのか。追加の負担を求めるのか、支援内容を変更するのか、提供側が負担するのか。この扱いを最初から説明しておけば、本人も備え方を考えられます。支援が必要になってから初めて知らされるのでは、選べる余地が小さくなってしまいます。
先に民間サービスを契約した人は、どうなるのでしょうか
公的な関与で利用者の負担を軽くする場合、既に自費で民間サービスを契約した人から、「自分は先に備えただけなのに」という疑問が出ることは考えられます。制度を広げるなら、この公平感にも目を向けたいところです。
ただ、同じ「見守り」や「死後事務」という名前でも、対応する時間、回数、追加料金、責任の範囲は異なります。比較するには、まず中身をそろえる必要があります。奈良市の案内だけでは、民間より安いのか、公費でどの程度支えているのかまでは判断できません。
そのうえで負担軽減を設けるなら、支援の必要性や支払い能力に応じた基準を示すことが考えられます。同じ条件の人について、既に民間と契約しているという理由だけで扱いを変えるなら、その理由も説明する必要があります。過去の支出をすべて同額に戻す話とは分けて、今後の支援や移行時の扱いを検討したいと思います。
制度によっては、一定の基準を満たす複数の提供者を利用できる助成も選択肢になるでしょう。ただし、費用の上限、提供者の確認、二重の支援を避ける調整などが必要です。これは奈良市の現行制度の説明ではなく、公的な負担軽減を設計するときの検討案です。
契約できない人を、別の支援へつなげられるか
今回の事業には、原則75歳以上などの対象要件に加え、契約能力と、預託金・利用料を負担できる見込みが求められます。生活保護受給者は対象外ですが、市は対象外の人にも、利用可能な制度や相談窓口等を案内するとしています。[1]
この条件を見て、支援がないと決めつけることはできません。ただ、案内を受け取った先で、実際に必要な仕事を引き受ける人が見つかるかは、確認していく必要があります。本人の状態や資力が変わった場合も、支援を切らずにつなぐ工夫が求められます。
終活支援への信頼は、契約した日の説明だけで決まるものではないと思います。年月がたち、本人が十分に確認できなくなったときにも、約束した仕事が行われ、その費用が適切に使われる。奈良市の取り組みを、そのような仕組みを地域に育てていく一歩として見ていきたいと考えています。
出典
[1]奈良市「エンディングサポートなら」。[2]厚生労働省「身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題に対応するためのモデル事業」。
制度・ニュースの確認時点:2026年10月7日|はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士

