配偶者居住権で税金はどう変わる?|相続時・放棄時・死亡時の違い

配偶者居住権の総合ガイドへ戻る / 相続の記事一覧

配偶者居住権で税金はどう変わる?|相続時・放棄時・死亡時の違い

はまなす行政書士事務所|行政書士 角屋敦士
公開・法令等確認:2026年10月12日

最初の相続税だけで決めない。途中で手放す場合と、最後まで持つ場合を比べます。

配偶者居住権を調べると、『相続税対策になる』という説明を目にすることがあります。税務上の特徴は確かにありますが、どの家族にも同じ結果になるわけではありません。設定する時、途中で消す時、死亡や期間満了で終わる時。この三つの場面を分けると、何を比較すべきかが見えてきます。

この記事で確認できること
相続時には、建物と土地をそれぞれ評価する
配偶者の軽減があっても、申告不要とは限らない
小規模宅地等の特例は、家族全員に自動で使えるものではない
途中で無償放棄すると、所有者への贈与が問題になる
死亡・期間満了は、途中の放棄と同じ扱いではない
比較するのは税額だけでなく、本人の手元に残る資金

場面税務上の着眼点
相続で取得居住権・所有権の評価と特例の要件
合意・放棄で途中消滅所有者への贈与、配偶者の譲渡所得
死亡・当初の期間満了途中放棄と区別。ほかの相続財産は別に計算

相続時には、建物と土地をそれぞれ評価する

配偶者居住権を設定した場合、相続税の評価では、建物を『配偶者居住権』と『その負担がある建物所有権』に、土地を『敷地利用権』と『その負担がある土地所有権』に分けて捉えます。権利が増えたから、家の価値を丸ごと二重に計上するという意味ではありません。[1]

例えば、同じ評価方法・同じ時点で建物と土地の合計が4,000万円、配偶者側の権利が合計1,500万円、所有者側が合計2,500万円と評価された、と仮定します。配偶者には1,500万円相当、所有者には2,500万円相当の取得として計算に反映するイメージです。これは仕組みを説明する仮の数字であり、実際の評価例や目安の割合ではありません。

実際の計算には、建物の構造・築年数、権利の存続期間、配偶者の年齢などが関係します。税務上の敷地利用権の評価があることと、土地に建物と同じ居住権設定登記をすることは別です。評価と登記を混同しないようにします。[1・2]

配偶者の軽減があっても、申告不要とは限らない

配偶者の税額軽減には、実際に取得した正味の遺産額について、1億6,000万円または法定相続分相当額の多い方まで、配偶者に相続税がかからない仕組みがあります。ただし、軽減を受けるためには原則として必要書類を付けた申告が必要です。基礎控除以下で申告自体が不要な場合とは分けて考えます。[3]

配偶者居住権を取得した配偶者の税額が軽くなっても、建物や土地の所有権を取得する子どもの税負担は別に計算します。さらに、残った配偶者が後に亡くなる二次相続の財産、生活費の支出、相続人の構成まで見ないと、家族全体の比較にはなりません。

『配偶者には課税されないから、ここで多く渡せばよい』とも、『子どもに所有権を渡せば必ず得』とも言い切れません。自宅の所有権を配偶者が取得する案と、居住権と所有権を分ける案を、同じ条件で試算することが出発点です。

小規模宅地等の特例は、家族全員に自動で使えるものではない

特定居住用宅地等に該当する場合、小規模宅地等の特例には330㎡を限度に80%減額する仕組みがあります。配偶者の敷地利用権も検討対象となりますが、土地所有者側が取得する権利とは、それぞれ取得者の要件を確認します。[4]

土地の面積は、所有権と敷地利用権のそれぞれの価額の割合に応じて按分する扱いがあります。母にも子にも同じ土地面積の全体を重ねて使えるわけではありません。また、別居の子どもが所有権を取得した場合に、母が住んでいることだけで、その子も特例を使えるとは限りません。[4]

配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例は、同じ制度ではありません。遺産が未分割のまま期限を迎える場合には、いったん適用できない部分や、後の適用に向けた書類・期限が問題になります。申告期限が来る前に、分割協議と税務をつなげて確認します。[3・4・5]

途中で無償放棄すると、所有者への贈与が問題になる

配偶者が施設へ移り、『もう住まないので居住権はいらない』と無償で放棄したとします。建物・土地の所有者は、当初予定していた期間を待たずに利用できる利益を得ることになります。

国税庁の相続税法基本通達9-13の2は、合意や放棄等で居住権が消滅し、所有者が対価を払わない、または著しく低い対価しか払わない場合、原則としてその利益を贈与で取得したものと扱います。現金が動いていないことは、贈与税の問題がないことを意味しません。[6]

反対に、適正な対価を払えばすべて解決するとも限りません。対価を受け取る配偶者側には譲渡所得の計算が必要になります。収入額がそのまま課税所得になるわけではなく、取得費等の検討が必要です。[7]

対価を決める際は、消滅時点の権利の価値を確認します。数年前の相続税申告の評価額を、そのまま現在の価格として使うのは適切とは限りません。評価の根拠、支払記録、合意内容をそろえることが重要です。

死亡・期間満了は、途中の放棄と同じ扱いではない

配偶者居住権は配偶者の死亡で消滅し、子どもなどへ相続されません。当初定めた期間の満了で終わる場合もあります。これらは、前項の合意・放棄による消滅とは税務上区別されます。死亡によって所有者が居住権を相続取得するわけではなく、その消滅自体について所有者に相続税がかかる扱いではありません。期間満了についても、途中の無償放棄と同じ贈与課税は行われません。[6・8・9]

ただし、母が持つ預貯金など、ほかの財産の相続税までなくなるわけではありません。建物・土地の所有権を母自身も一部持っていれば、その持分は別に相続の対象です。『二次相続は全部非課税』という理解は避けたいところです。

権利が消えても登記の表示が自動で消えるわけではありません。死亡による消滅では、所有者が単独で抹消登記を申請できる取扱いがあります。家財の引取り、鍵の返還、未精算費用も整理します。権利そのものと、未払い債務や精算関係は別です。[2・8]

比較するのは税額だけでなく、本人の手元に残る資金

相談では、『配偶者が所有権を取得する案』『配偶者が居住権、子が所有権を取得する案』『数年後に住み替える案』を用意すると、違いが見えやすくなります。

各案で並べるのは、一次相続の税金、将来の相続税、登記等の費用、修繕費、売却時の税金、本人が使える現金です。将来の寿命や売値を一つに決め打ちせず、複数の想定で確認します。

税金が少なくても、必要な時に施設費を払えなければ、その家族にとって使いやすい設計とはいえません。住む安心と、動ける資金。その両方が確保できているかを、最終的な判断基準にしたいところです。個別の評価・申告・税務判断は税理士へご相談ください。

ご家族の状況に合わせて、準備を整理したい方へ

はまなす行政書士事務所では、遺言原案の作成、相続人・財産の調査、合意した内容の書類作成などをご相談いただけます。登記は司法書士、税務は税理士、紛争の解決は弁護士の担当となるため、必要な手続きと相談先を整理します。

相続・遺言の相談内容を送る / 業務・料金の案内を見る

確認した法令・公的資料

本文の番号は下記資料に対応します。法律上の要件と、家族で協議するための実務上の提案を区別して記載しています。具体的な適用は、権利関係・遺言・合意内容等により異なります。

1.国税庁・No.4666 配偶者居住権等の評価

2.法務省・配偶者居住権の登記の取扱い

3.国税庁・No.4158 配偶者の税額の軽減

4.国税庁・No.4124 小規模宅地等の特例

5.国税庁・No.4208 相続財産が分割されていないときの申告

6.国税庁・配偶者居住権等の消滅に関する税務(相続税法基本通達9-13の2を含む)

7.国税庁・所得税基本通達33-6の8(消滅の対価)

8.民法(第1028条〜第1041条ほか)

9.国税庁・税務大学校論叢105号(配偶者居住権消滅時の課税関係)

必要な各論を選んで読む

全体の流れを確認する:配偶者居住権の総合ガイド

配偶者居住権を遺言で残すには|名義・文言・生活資金の決め方

相続が始まったら配偶者居住権はどう手続きする?|遺言・遺産分割・登記の順番

配偶者居住権の固定資産税・修繕費は誰が払う?|親子で決めておきたい費用負担

配偶者居住権がある家は売れる?|施設入所・賃貸・住み替えの進め方