まず押さえたいこと

後の遺言があるだけで、前の遺言の全条項が当然に消えるわけではありません。撤回の意思や、前後の遺言が抵触する範囲を確認します。公正証書と自筆証書の形式だけで一律の優劣が決まるものでもありません(民法1022条・1023条)。[1][2]

最初の一歩:見つかった遺言をすべて保全し、作成日・方式・保管場所・対象財産を一覧にします。

この記事の目次

1.新しい一通だけを残すと、判断材料がなくなる

説明用の例です。2020年の公正証書遺言には「自宅は妻、預金は長男、執行者はA」とあり、2025年の自筆証書遺言には「B銀行の預金は長女へ」とだけ書かれていました。後の遺言が適式で有効だとしても、自宅や他の預金、執行者の条項まで全部なくなったと直ちには判断できません。

どこが抵触し、どこが併存するのかを確認するため、古い遺言も必要です。原本を破る、書き込む、都合の悪い部分だけ隠すことはせず、発見時の状態を保ちます。

2.比べる順番は、日付・方式・撤回文言・条項

まず日付と方式を確認し、次に「前の遺言を全部撤回する」などの文言があるかを見ます。その後、同じ財産について異なる取得者が指定されているなどの抵触を確認します。遺言の有効性自体に疑いがある場合は、その検討が先に必要です。

確認項目見るポイント
日付作成年月日の特定、前後関係
方式自筆・公正証書等、必要な形式
撤回の文言全部撤回か、一部変更か
対象財産同じ物件・口座を指すか
取得者・割合矛盾する指定があるか
執行者等以前の指定が残るか、変更されたか

3.公正証書なら、後の自筆証書より必ず強いのか

遺言の撤回・変更は、適式な遺言によって行うことができ、以前と同じ方式にそろえる必要はありません。後の自筆証書遺言が、前の公正証書遺言を撤回する場合もあります。逆も同様です。[2]

ただし、後の手書きの紙が遺言の方式を満たさない、作成時の意思能力が争われるなどの問題があれば、単に新しい日付があるだけで結論は出せません。「コピーしかない」「日付の読み方が曖昧」といった事情も、そのまま相談資料にします。

4.書いた後に財産を売った場合も、条項を確かめる

遺言後の処分が遺言と抵触する場合には、その抵触する部分が撤回されたものとみなされる規定があります。例えば、遺言に記載された不動産を生前に売っていた場合、元の不動産の条項がそのまま売却代金へ当然に置き換わるとは限りません(民法1023条)。[1]

また、新しい遺言を後で撤回したときに、以前の遺言が当然に復活するとは限らない点にも注意が必要です。遺言とその後の行為の時系列を整理し、全部の文書を見て判断します。家族の希望に合う一通だけを選んで処理しないでください。

5.検認と、有効性の判断は別に進める

自宅保管の自筆証書遺言等で検認が必要な場合は、家庭裁判所の手続きを確認します。検認を済ませたことは、遺言が有効である、別の遺言より優先するという裁判上の確定ではありません。[3]

銀行や司法書士へは、複数の遺言があることを最初に伝えます。有効性や解釈で対立がある場合は弁護士へ相談し、自己判断で払戻し・分配を完了させないようにします。遺言執行者がいる場合も、全資料を共有して確認します。

よくある質問

新しい遺言に書かれていない財産は、全部遺産分割になりますか。

古い遺言の有効な条項が残る可能性や、その他の財産に関する条項があります。新しい遺言にないという理由だけでは決められません。

生前に作り直すなら、どうすれば分かりやすいですか。

変更したい点だけでなく、残したい条項と全体の整合を確認します。全部を整理した遺言にするか、一部変更にするかを専門家と検討し、旧文書の扱い・保管情報も整理します。

今日の確認メモ

  • すべての遺言を保全する
  • 作成日と方式を並べる
  • 撤回・抵触・残る条項を分ける
  • 後の売却等も含め専門家へ示す

根拠となる公式資料

[1] e-Gov法令検索「民法」

[2] 日本公証人連合会「遺言」Q&A

[3] 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」

制度確認日:2026年10月17日。日本の一般的な相続・遺言手続きを説明しています。事例・金額は説明用です。作成日・死亡日等による経過措置や個別の事情で結論は変わります。税務は税理士・税務署、登記は司法書士等、紛争・権利行使は弁護士にご確認ください。

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