値段が上がる速さと、いま払う金額は別です。さらに、企業の売上が増えることと、働く人の収入が増えることも別です。
上がる勢いが弱まっても、値段は戻らない
いつもの食品をかごに入れ、レジで金額を見る。以前なら、この金額でもう一品買えた気がする。「値上げが落ち着いた」と聞いても、買い物の負担がすぐ軽くなるわけではありません。
帝国データバンクが2026年9月30日に発表した食品主要195社の調査によると、10月に値上げする食品は3,153品目でした。これは価格を改定する品目の数で、個々の家庭がいくら多く払うかを直接示す数字ではありません。[1]
ここで分けたいのは、値上げが減ることと、値下がりすることです。たとえば、100円から120円になった品物が、翌年は121円になったとします。上昇率は小さくなりましたが、100円に戻ったわけではありません。以前との負担の差は残っています。
暮らしが楽になったかを見るには、値上げの勢いだけでなく、今の値段と、今の収入を比べる必要があります。
値上げした会社は、その分だけ儲かるのか
値上げで売上が増えても、利益が増えたとは限りません。原材料、電気、輸送、人件費などの負担がそれ以上に増えれば、利益は減ることもあります。
価格を上げやすい会社と、取引先との関係で上げにくい会社でも事情が違います。「企業が儲かった」とまとめる前に、どの会社の、どの利益が、なぜ増えたかを確かめたいところです。
そのうえで利益が増えたなら、使い道を考えます。従業員の給与や賞与、設備や研究への投資、株主への配当、将来に備えた資金。どこへ、どれだけ配るかは自動的には決まりません。
会社の成長を支える投資も必要です。しかし、働いた人の生活費が増えたときに、利益の配分についてどれだけ話し合えるかも重要です。分配の問題には、お金の量と、判断に参加する力の両方があります。
ピケティの議論は「諦めるしかない」という話か
経済学者トマ・ピケティの議論でよく知られるのが、資本収益率rと経済成長率gの関係です。資本収益率は、持っている資産からどの程度の収益を得るかを表し、経済成長率は、経済全体がどの程度大きくなるかを表します。
ピケティは、資産の収益が経済の成長を上回ることが、格差を考えるうえで重要と論じています。ただし、この関係だけで格差が説明できるわけではないとも述べています。今回の食品値上げの利益が、誰に配られるかを直接示す理論ではありません。[2]
参考にしたいのは、持っている資産を増やす人と、賃金を主な収入にする人では、お金が増える条件が違うという視点です。税や相続、教育、賃金交渉の仕組みも、その差に関係します。条件が制度で変わるなら、結論を「どうしても変えられない」にしてしまうのは早いでしょう。
生活費は先に増える。収入はいつ増えるのか
食費は来月から増えても、賃金の見直しは年に一度かもしれません。家計には、その時間差が重くのしかかります。貯蓄が少なく、必要な支出を削りにくい人ほど、待つことが難しくなります。
家計への影響を判断するには、給与の金額だけでなく、そのお金でどれだけ買えるかを見ます。これを考えるための指標が実質賃金です。また、会社が生み出した価値のうち人件費が占める割合を見る労働分配率もありますが、計算方法には違いがあり、景気でも動きます。比率だけで待遇がよくなったとは決められません。[3]
給与や賞与、労働時間、物価、会社の利益を合わせて見る必要があります。小さな会社に賃上げを求めるなら、その会社が取引先へ費用の上昇を価格に反映できるかも考えます。
値上げへの理解を求める説明と同じくらい、働く人の生活費が増えたときの収入についても、具体的な話し合いがあってよいはずです。物価のニュースを、今月の家計だけで終わらせず、増えた負担と利益をどう分けるかにつなげて考えたいと思います。
資料確認日:2026年10月7日|はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士


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