遺言・相続の実務ガイド / 内容確認:2026年10月4日

「分け方が決まらないので、相続税の申告もまだできません」。自宅を誰が取得するか決まらず、話合いに時間がかかることはあります。しかし、分割が終わる日と、申告・納税の期限は別に管理する必要があります。
相続税の申告が必要な場合、遺産が未分割でも、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内の申告・納税が必要です。分割ができないことだけで期限は延びません。未分割で申告する準備と、分割後の税務の見直しを分けて進めます。
まず確認するのは、「10か月」より申告の要否
相続が起きれば全員に相続税の申告義務が生じる、ということではありません。一般的な基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
例えば、妻と子2人の計3人が法定相続人なら、基礎控除の目安は4,800万円です。ただし、預金残高だけと比較すればよいのではありません。不動産の税務上の評価、死亡保険金、債務、一定の生前贈与など、税額計算に入るものと控除するものを確認します。
配偶者の税額軽減などで納税額がゼロになる場合でも、適用のため申告が必要なことがあります。「妻が全部受け取る予定だから申告不要」「特例で安くなるから何もしなくてよい」と決めないようにしてください。
未分割で申告しても、分け方が法定割合に固定されるわけではない
申告が必要なのに期限までに分割できない場合、未分割の財産については、法定相続分または包括遺贈の割合に従って取得したものとして税額を計算する方法を確認します。
これは期限内に申告するための税務上の計算です。その割合で遺産分割に合意したという意味ではなく、誰が自宅を最終的に取得するかが決まるものでもありません。
相続人同士が納得できないまま、申告のためだけに協議書へ署名することを急がないでください。税務を先に進める方法と、財産の分け方を決める話合いを分けることで、期限への対応と合意の検討を両立できます。
「税額が決まる」と「納税する現金がある」も別
例として、遺産が自宅と預金で、自宅を妻が取得するか売却するかが決まっていない家族を考えます。分割前に申告することはできても、自宅の価値がそのまま納税用の現金になるわけではありません。
誰がどの資金で納めるかを早めに確認します。未分割の預金の払戻しには別の条件があり、一人の判断で自由に使えるものではありません。自分の預金で立て替えるなら、後でどう扱うかも曖昧にしないようにします。
資金が足りない場合は、延納等の制度を利用できるかも含め、期限前に税理士や税務署へ確認します。制度があるから当然に納付を待ってもらえる、とは考えないでください。
未分割のままでは使えない特例がある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、未分割の対象財産について当初の申告で適用できない場合があります。「いずれ妻が取得する予定」という見込みだけでは足りません。
後から分割して特例を使うためには、当初の申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付するなど、必要な準備があります。また、取得する人の居住や事業など、特例そのものの条件も満たす必要があります。
| 段階 | 確認すること |
|---|---|
| 10か月の申告期限まで | 申告・納税、未分割財産の計算、分割見込書等 |
| 分割を進めている間 | 取得者による特例要件、納税資金、資料の更新 |
| 分割が成立した後 | 実際の取得に基づく税額の再計算・修正申告や更正の請求 |
| 原則3年の区切りが近い場合 | 未分割の理由と、承認申請等の要否・別の期限 |
3年という区切りは、10か月の申告期限を延ばす期間でも、話合いが無条件に待ってもらえる期間でもありません。申告時から次の確認日を予定に入れておくことが大切です。
分割後は、協議書をしまう前に税理士へ送る
申告後に分割がまとまり、実際の取得に基づく税額が変われば、修正申告や更正の請求を検討します。税額が減る場合の更正の請求には、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内などの期限があります。
特例の適用は原則として申告期限から3年以内の分割が前提です。訴訟等の一定のやむを得ない事情がある場合は、税務署長の承認を受けるための申請等が必要で、さらに別の期限が設けられています。
「裁判中だから大丈夫」と判断せず、3年を過ぎる前から事情と期限を税理士に確認します。分割が成立したら、協議書、成立日、実際に取得した財産、居住等の状況を速やかに伝えてください。
話合いが止まっていても、進められる準備はある
分け方が決まっていなくても、相続人の確認、財産と債務の調査、残高証明や評価資料の取得、保険金の確認は進められます。財産の全体像が分かれば、申告の要否と納税資金の見通しを立てやすくなります。
- 死亡を知った日と、申告・納税期限を確認する。
- 相続人、遺言、財産、債務等の資料を整理する。
- 税理士に申告の要否と、期限までの必要資料を確認する。
- 未分割での申告方法、特例の備え、納税資金を相談する。
- 分割後と3年の区切りに向け、次の連絡日を決める。
家族の対立が続く場合は、税務を止めずに、遺産分割の交渉や裁判所の手続を弁護士へ相談します。税金の準備と紛争の解決は、それぞれに適した専門家へつなぐことが必要です。
よくある疑問
期限までに、一部の財産だけ分割すればよいですか?
一部分割が可能な場面はありますが、残る財産との関係や特例の条件を確認する必要があります。目先の節税だけで自宅等の取得者を決めず、生活と全体の合意を含めて検討します。
もう10か月を過ぎていたら、分割を終えるまで待ってよいですか?
さらに待つのではなく、申告の要否と現在できる対応を速やかに税理士へ確認してください。申告・納付が遅れたことによる税務上の影響も、具体的な事情を示して確認します。
期限のある準備を、話合いの進み方から切り離す
分割が難航しているときほど、「協議がまとまったら全部進める」では時間が足りなくなります。まず申告の要否を確認し、必要なら未分割の申告と納税資金を準備してください。その上で、家族が納得できる分け方を検討し、分割後の税務までつなげましょう。
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根拠・確認先
本文の人物・金額を用いた例は、理解のための架空の例です。個別の判断は、遺言、家族関係、財産、契約内容等を確認して行います。
相続の資料と手続を整理したい方へ
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はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士
