遺言・相続の実務ガイド / 内容確認:2026年10月4日

「自分の財産の一部を、長く応援してきた活動に役立てたい」。遺言による寄付は、その思いを残す方法の一つです。ただ、団体の名前と金額を書くだけでは、受け取る側が困ったり、実行する人が判断に迷ったりすることがあります。
遺言による寄付では、正式な受取人、受け入れられる財産、使途の条件、実行する人を確認します。家族の生活と必要な費用を見通し、団体に確認した条件を遺言へ反映することで、思いが実際の支援につながりやすくなります。
「遺言で寄付」と「相続後に家族が寄付」は仕組みが違う
遺言によって財産を個人や団体に与えることを遺贈といいます。団体を受取人として指定する場合は、遺言を実行する人が、財産の引渡し等を進めることになります。
これに対し、子が財産を相続し、その子の判断で寄付する場合は、相続後の別の行為です。税務や実行の責任も同じとは限りません。「子に渡して、寄付しておいてと言う」だけでは、団体へ直接渡す指定と同じ効果になるとは考えないでください。
家族に伝える思いと、法律上の財産の行先を決める内容は分けて整理します。活動を応援する理由を付言として残すこともできますが、寄付を実行するための指定は別に整える必要があります。
通称ではなく、財産を受け取る正式な相手を確認する
例えば、地域の子ども支援の活動に寄付したいとします。普段使われている活動名と、運営法人の正式名称が違う場合があります。支部、施設、プロジェクトが独立した受取人ではないこともあります。
団体の窓口に「遺言で寄付をしたい」と伝え、受取人の正式名称、法人格、所在地、遺言に記載してほしい事項を確認します。似た名前の団体や、同じ団体の別事業と取り違えない準備です。
日本赤十字社の公式案内では、特定の都道府県支部の事業へ役立てたい場合も、受遺者を「日本赤十字社」とした上で使途を指定する説明があります。これは同社の案内であり、別の団体にも同じ書き方を当てはめるという意味ではありません。
財産の種類が変わると、団体の負担も変わる
現金なら受け取れても、不動産、非上場株式、共有持分などは受け入れられない団体があります。維持費、処分の難しさ、権利関係が負担になるためです。
| 寄付の考え方 | 確認したい点 |
|---|---|
| 一定額の金銭を残す | 死亡時にその額を用意できるか・ほかの支出との関係 |
| 財産の一定割合を残す | 対象の範囲・評価・費用や債務の扱い |
| 不動産そのものを残す | 受入可否・管理費・共有や担保の有無 |
| 不動産等を売却して金銭を残す | 売却の実行役・権限・費用・税務・売れない場合 |
「自宅を寄付する」と「自宅を売って、手取りから寄付する」は別の設計です。例えば売却価格が2,000万円でも、その全額を寄付できるとは限りません。売却費用や税金、遺言の実行費用等をどう負担するかを整理します。
財産の一定割合を遺贈する包括遺贈では、権利だけでなく義務の承継も問題になります。団体が債務の存在や内容によって受け入れを判断することもあるため、プラスの財産だけを伝えないようにします。
使途を狭く指定しすぎると、受け取れないこともある
「必ずこの施設の、この設備の購入だけに使ってほしい」と指定しても、相続が始まる時点で施設が閉鎖されている、事業が変わっている、設備が不要になっている可能性があります。
使途を指定するなら、団体が対応できる範囲を確かめます。その活動が終了した場合に、同じ分野の別事業へ使ってよいのかなど、希望の中心と許容できる幅を整理しておくと相談しやすくなります。
団体自体が解散した場合、受け入れを断った場合の代わりの行先も検討します。「そのときは適当に別の団体へ」と実行役に任せるのではなく、どの範囲の判断を誰に委ねられるかを公証人等と確認します。
家族への配慮と、税務の確認を先に行う
寄付額を考えるときは、配偶者や扶養する家族の住居・生活費、借入れ、葬儀等の支出、遺言執行の費用なども並べます。財産の総額だけで寄付額を決めると、現金が足りないことがあります。
配偶者や子等には遺留分が問題になる場合があります。遺言で寄付を指定できることと、家族から金銭請求が生じないことは別です。対立が予想される場合は、作成前に弁護士へ確認します。
税金は団体の性質、寄付方法、財産の種類で変わります。「公益活動の団体だから、すべて非課税」とは言えません。不動産や株式を法人へ渡す場合には所得税等の検討も必要になることがあるため、遺言を書き上げてからではなく、方法を選ぶ段階で税理士に相談してください。
遺言執行者と、団体へ連絡する経路を決める
遺言の内容を実行する遺言執行者について、候補者へ対応可能性と報酬・費用を確認します。財産の調査、銀行の手続、売却、団体への確認など、実行する作業を見せて相談することが大切です。
団体へ問い合わせた記録は、遺言とは別に保管できます。窓口、確認日、受入条件、必要資料を整理し、遺言執行者が探せるようにしておきます。ただし、時間がたてば団体の条件も変わり得るので、過去の回答だけで実行時の受諾まで保証されるわけではありません。
- 応援したい活動と正式な受取人を確認する。
- 財産の種類、金額・割合、使途の受入条件を確認する。
- 家族の生活、債務、費用、遺留分と税務を検討する。
- 実行役と、代わりの行先を含めて遺言を整える。
- 保管・発見・逝去時の連絡方法を決め、変化に応じて見直す。
よくある疑問
少額の寄付でも、団体へ事前連絡が必要ですか?
常に法的な義務ということではありませんが、少額でも正式名称や受入方法の確認は役立ちます。団体側に遺贈窓口があるかを調べ、希望する財産と方法を伝えてください。
家族へ寄付をお願いする付言だけで実行されますか?
付言は思いを伝える役割がありますが、財産の行先を法的に指定する条項と同じではありません。希望どおりの実行を目指すなら、寄付の指定と実行体制を具体的に整えます。
「何を応援したいか」から、実行できる形へ
最初の一歩は、活動名を書くことより、団体へ正式な受取人と受入条件を確かめることです。その回答を家族の生活と財産の現実に照らし、寄付方法を選びます。遺言に残す思いが、受け取る側と実行する側の双方に伝わるよう準備しましょう。
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根拠・確認先
本文の人物・金額を用いた例は、理解のための架空の例です。個別の判断は、遺言、家族関係、財産、契約内容等を確認して行います。
遺言の内容と準備を相談したい方へ
当事務所では、寄付の希望、家族関係、財産資料を整理し、公正証書遺言等の作成準備をお手伝いします。候補団体からの案内があればお持ちください。税務は税理士、遺留分等の紛争の懸念は弁護士と確認して進めます。
はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士
