遺言・相続の実務ガイド / 内容確認:2026年10月4日

「入院しているので、公証役場には行けません。それでも遺言は作れますか」。公証人が病院や自宅へ出張して、公正証書遺言を作成する方法があります。大切なのは、移動できるかだけでなく、本人が希望を伝え、内容を確認できる準備を整えることです。
入院中でも、公証人の出張による遺言作成を検討できます。病院との面会調整、本人の意思確認、財産資料、証人2名、費用を並行して準備します。家族が段取りを手伝うことと、本人に代わって遺言を決めることは区別します。
家族が相談を始めても、遺言するのは本人
例えば、入院中の母が「自宅で暮らす長女に家を残し、長男には預金を残したい」と話している場面を考えます。長女が公証役場へ連絡し、必要資料を届けることは準備の助けになります。
ただし、長女の説明だけで母の遺言が完成するわけではありません。公証人は、遺言内容が本人の真意か、本人がその内容を理解しているかを確認します。家族が作った案と本人の希望が違えば、本人の希望が出発点です。
本人の話を聞くときは「家は長女でいいよね」と答えを誘導するより、「家は誰に残したい?」「預金はどうしたい?」と、本人の言葉を確かめることが役立ちます。家族の都合に合わせて急いで同意を得ることを避けましょう。
公証役場への最初の連絡で伝えること
資料がすべてそろうまで、相談を待つ必要はありません。入院先、本人の状態、急ぐ理由、分かっている希望を伝え、出張可能な日時と、先に確認すべきことを相談します。病院が遠い場合は、公証人が出張できる地域も確認します。
- 本人の氏名と入院先・病棟、家族側の連絡先。
- 本人が会話、読み書き、内容確認をどの程度できるか。
- 治療や薬、疲労などによる状態の変動について分かること。
- 退院・転院予定など、日程に影響する事情。
- 受取人と財産について、本人が希望している内容。
- 病院の面会条件と、本人と落ち着いて話せる場所。
医療の判断は医療者に相談します。家族が「今日は大丈夫」と判断するだけで進めず、病院側に治療予定や面会の配慮を確認し、公証人へも実情を共有してください。
本人の判断能力は、診断名や署名の可否だけで決まらない
病気があること、認知症の診断があること、手が動かしにくいことは、それぞれ別の事情です。病名だけで遺言の可否を決めるのではなく、本人が今回の財産の渡し方や、その意味を理解して意思を示せるかが問題になります。
公証人が必要に応じて診断書等を求める場合がありますが、診断書があれば遺言の有効性がすべて保証される、というものではありません。作成時の状態と、実際の意思確認が重要です。
本人が十分に理解・意思表明できない状態なら、家族や成年後見人が代わりに本人の遺言を作ることはできません。成年被後見人が判断能力を一時回復した場合などには特別な要件もあるため、一般の手続と同じものとして進めず、公証人に事情を伝えます。
手が動かない、声が出にくい場合は、方法を先に相談する
公正証書遺言では、本人が自筆証書遺言の全文を手書きする必要はありません。現在の公証手続では電磁的記録と電子サインを用いる案内もあり、電子サインができない場合の対応を公証人と確認します。
話すことや聞くことが難しい場合も、法律上の方法や必要な補助を個別に確認します。「うなずければ必ず作れる」「署名できなければ一切作れない」のどちらも、事情を確認せず決めつける説明です。
聞き取りづらさや運動機能の問題と、内容を理解する力は混同しないようにします。補聴器、眼鏡、コミュニケーションの方法など、本人が普段使う手段を公証人へ伝えておくと、準備の検討につながります。
資料と証人は、本人の負担を減らすために先にそろえる
必要資料は公証役場の指示に従います。一般に、本人確認の資料、本人と相続人の関係を示す戸籍、受取人の情報、不動産や預貯金の資料などを準備します。全部を一度に持参するより、何が必要で、何が未取得かを一覧にして共有すると話が進めやすくなります。
公正証書遺言には証人2名が必要です。未成年者、推定相続人、遺贈を受ける人、それらの配偶者や直系血族等は証人になれません。娘と息子が付き添うから証人も足りる、とは限りません。
適任者がいなければ、公証役場へ紹介等を相談します。証人と公証人が入室するための病院側の調整も必要です。本人が自由に希望を述べられるよう、利害関係のある家族が席を外す運用も想定しておきます。
作成日を決める前に、費用と当日の流れを確認する
費用は財産額や受取人等による公証人手数料に加え、出張の費用、日当・交通費、証人の手配等が関係することがあります。総額は事情によって異なるので、個別の見積りと内訳を確認します。古い記事の料金表だけで予算を決めないようにしてください。
当日は治療・検査の直後や疲労が強い時間を避けられるか相談し、本人が内容を確認する時間を確保します。急ぐ場合でも、財産の表示や受取人の氏名を曖昧なままにせず、案の確認を先に進めます。
完成後は、遺言の保管と取得方法、遺言執行者、家族が存在を知る方法を整理します。「病室で作れた」で終わらせず、亡くなった後に見つかり、手続につながる備えまで確認しましょう。
よくある疑問
家族だけで先に文章を作っておいてもよいですか?
本人の希望を整理する案は準備に役立ちます。ただし、家族が決めた内容を本人に追認してもらうだけではなく、本人自身の希望かを確認する必要があります。本人の言葉と、家族が補足した情報を分けて伝えてください。
今日中に作ってもらえるでしょうか?
日程は公証人の対応、資料、本人の状態、病院の条件等によります。即日作成を約束できるものではありません。急ぐ理由を最初に伝え、まず出張と意思確認の可能性を相談します。
「来てもらう準備」と「本人が話せる準備」を一緒に
まず公証役場に本人の状態と入院先を伝え、病院にも面会の条件を確認してください。財産の資料をそろえる作業と、本人が落ち着いて希望を伝えられる環境づくりを並行して進めることが、入院中の遺言を支える準備になります。
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根拠・確認先
本文の人物・金額を用いた例は、理解のための架空の例です。個別の判断は、遺言、家族関係、財産、契約内容等を確認して行います。
遺言の内容と準備を相談したい方へ
当事務所では、本人の希望と財産資料を整理し、公証人との打合せに向けた準備をお手伝いします。入院先と、会話や書字についての状態、急ぐ事情をお知らせください。遺言の作成可否は公証人が確認し、紛争対応は弁護士等につなぎます。
はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士
