遺言・相続の実務ガイド / 内容確認:2026年10月4日

「遺言は全部、手で書かなければいけない」。そう思って、不動産の長い表示や複数の口座番号を前に、作成をためらっていませんか。自筆証書遺言では財産目録をパソコン等で用意できます。ただし、楽にできる部分と、自分で書くべき部分には明確な境界があります。
パソコンで作れるのは、遺言本文に添付する財産目録です。誰に何を残すかという本文、日付、氏名は本人の自書が原則です。印刷した目録には、必要な各用紙・各面への本人の署名と押印が求められます。
本文は「どう渡すか」、目録は「何の財産か」
例えば、母が自宅を長女に、A銀行の預金を長男に残したいとします。自宅の地番や口座番号は長く、書き間違いが心配です。そこで、財産を特定する目録を印刷し、本文は自分で書く方法が考えられます。
| 書く内容 | 役割 | 自筆証書遺言での扱い |
|---|---|---|
| 誰にどの財産を相続させるか等 | 財産の処分を決める本文 | 本人が自書する |
| 作成日付・遺言者氏名 | 遺言の成立に必要な記載 | 本人が自書し、押印する |
| 不動産の表示・預金口座の情報等 | 本文に添付する財産目録 | パソコン作成や資料の写しを使える |
| 家族への思いなどの付言 | 遺言に添える説明 | 遺言に記載するなら本人が自書する |
目録の欄に「この口座は長男に相続させる」と印刷すると、財産の特定と処分の指示が混ざります。印刷できる例外を、遺言本文まで広げないようにします。
目録に使える資料も、財産が分かる形に整える
財産目録は本人がパソコンで作成するほか、家族等が作成することもできます。不動産の登記事項証明書や、預貯金の通帳の写しを目録として添付する方法もあります。
ただし、「資料を貼れば十分」という意味ではありません。不動産なら土地と建物の両方があるか、共有なら本人の持分はどこかを確認します。住居表示の住所と登記上の地番は同じとは限りません。
通帳の写しなら、銀行・支店・預金種別・口座番号・名義人など、どの口座か分かる情報を確認します。単なる残高ページだけでは口座を特定しにくいことがあります。本文の「別紙目録1」と目録の番号が対応しているかも点検します。
目録に書かなかった財産や、その後に取得する財産をどう扱うかは、別の設計です。作成時の一覧を完成させることと、将来の変化に備えることを合わせて考えましょう。
署名・押印は、最後の1枚だけでは足りない
自書によらない目録を添付するときは、法律が求める「毎葉」への署名・押印を確認します。「目録全体の最後に1回」ではなく、用紙ごとに確認するのが基本です。
| 目録の印刷方法 | 署名・押印の確認 |
|---|---|
| 1枚の片面に印刷 | その用紙の片面または裏面の1か所に署名・押印 |
| 1枚の両面に自書でない記載がある | 表・裏のそれぞれに署名・押印 |
| 片面印刷の目録が3枚 | 3枚それぞれに署名・押印 |
例えば、目録を両面印刷して表面だけに署名・押印した場合、裏面の確認が抜けています。本人が目録を確認したことを示す作業は、家族が代わりに済ませることはできません。
印刷した氏名だけで済ませず、本人が署名します。本文に押印したから目録は不要、という扱いでもありません。綴じた境目への契印も、必要な各用紙・各面の署名・押印に代わるものではありません。
本文と印刷した目録は、用紙を分ける
自書しない財産目録は、本文とは別の用紙で用意します。本文の下半分に口座一覧を印刷し、上半分だけ手書きするような作り方は避けてください。
法律上、目録の添付方法に特定の綴じ方が必須とされているわけではありませんが、本文と目録の対応が分かることは重要です。番号や表題をそろえ、差し替えや取り違えが起きにくい形で管理します。
法務局の保管制度を使う場合は、A4、片面、所定の余白など、保管のための様式条件もあります。民法上の作成要件と、保管申請の様式条件は別です。保管を予定しているなら、印刷する前に法務局の用紙例を確認すると作り直しを減らせます。
訂正するときに、普段の書類と同じ感覚で直さない
自筆証書遺言の加除変更には、変更箇所を示し、変更した旨を付記して署名し、変更箇所に押印するなどのルールがあります。二重線と印鑑だけ、修正テープだけで済ませる方法は避けます。
特に、完成後に家族が目録を再印刷して入れ替えると、元の遺言と一体のものか、本人が承認したものかという問題が残ります。口座が変わったら目録だけ交換すればよい、と考えないでください。
書き直しが可能なら、本文・目録・署名押印の組合せを改めて整える方法を検討します。誤りが多い、長い文章を自書するのが難しい場合は、公正証書遺言の方が負担を減らせることもあります。
完成前は、この順番で読み合わせる
- 本文に、誰へ何を残すかが本人の自書で書かれているか。
- 日付を特定できるか。氏名の自書と押印があるか。
- 目録に本文の指示や印刷した付言が混ざっていないか。
- 本文の目録番号と、添付する財産情報が一致するか。
- 印刷等で作った目録の各用紙・必要な各面に、本人の署名と押印があるか。
- 変更箇所の処理と、保管する場合の様式条件を確認したか。
よくある疑問
財産目録を子どもに作ってもらうと、遺言は無効ですか?
目録自体は本人以外が作成することもできます。ただし、内容は本人が確認し、必要な署名・押印は本人が行います。本文の自書を子どもが代わることはできません。
法務局に預けられたら、内容の有効性も保証されますか?
保管制度は、遺言の法的な有効性や内容の実現を保証する制度ではありません。形式だけでなく、財産の特定、受取人、他の条項との関係を作成段階で点検します。
手書きの負担を減らし、意図の確認に時間を使う
財産目録を印刷できる仕組みは、長い地番や口座情報を書き写す負担を減らします。その分、本文の希望と目録の対応を丁寧に確かめてください。「自分で書く部分」「印刷する部分」「自分で署名・押印する部分」を分けると、作成の見通しがよくなります。
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根拠・確認先
本文の人物・金額を用いた例は、理解のための架空の例です。個別の判断は、遺言、家族関係、財産、契約内容等を確認して行います。
遺言の内容と準備を相談したい方へ
当事務所では、財産資料の整理と、どの作成方法が希望や身体の状態に合うかの検討をお手伝いします。目録の資料だけでなく、誰にどのように残したいかのメモをお持ちください。相続人間の争いは弁護士、税務は税理士等へつなぎます。
はまなす行政書士事務所 行政書士 角屋敦士
